被虐待児症候群 向井先生 6月20日 1. 児童虐待の定義 保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に看護するものを言う)がその監護する児童(18歳未満)に対し、次に掲げる行為をすることをいう。 (1) 児童の身体に外傷が生じる、またはその恐れのある暴行を加えること(physical abuse)。 (2) 児童にわいせつ行為をする、またはさせること(sexual abuse)。 (3) 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食または長時間の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること(neglect)。 (4) 児童に著しい心理的外傷を与える言動をすること(emotional abuse)。 注) これらが日常的、反復的であることは定義上の必要条件ではない。 2. 疫学 ・ 年別の症例数:緩やかな増加傾向 ・ 年齢分布・性別:0歳児が最も多い。性差無し、加齢による減少傾向も無い。 ・ 加害者は、実母・実夫・実父母の順に高い。次いで、継父・継母・兄弟の順。 3. 虐待の手段 手その他による殴打、窒息、炎天下に放置(neglect)… 4. 虐待の原因・動機 加害者の精神異常、無責任、愛情欠如、いたずら、実夫ならば被害者の泣き声 5. 死因 頭蓋内損傷が最も多い。その中では、乳幼児は脳挫傷が少ないため、硬膜下血腫、クモ膜下血腫、びまん性脳腫脹が殆どである。次いで、鼻口閉塞、溺水、Neglectが多い。 6. 死体所見 (1) 受傷時期の異なる損傷が混在→反復・日常化したものが多い。 (2) 打撲傷・擦過傷が多い。 (3) 掴まれ(皮下出血)、噛まれ(咬傷)、爪で掴まれ(爪痕)、棒状のもので叩かれる(二重条痕)などの傷がある。 (4) 熱火傷(タバコ・お灸)が手・足・臀部・陰部などに多い。 (5) 栄養状態不良、発達遅延、不潔、皮膚病 (6) 新旧混在する骨折 (7) 内臓では、消化器・肝臓などお腹に損傷がある。 7. どのような両親・家族に多いのか。 (1) 低年齢、親としての自覚欠如、育児に対する無知、低経済力、社会的孤立、家庭不和 (2) 親自身の虐待経験(世代間連鎖) 世代間連鎖…@子供時代に愛されていない親、A生活ストレス、B社会的孤立、C親の意に沿わぬ子供 (3) 精神障害、慢性アルコール中毒 8. 法律 (1) 児童福祉法 福祉事務所への通告義務(25条)→日本国民全体の義務(医師に限らない) (2) 児童虐待等に関する児童福祉法の適切な運用 「通告」は医師や弁護士等の守秘義務には抵触しないことを明示。 同法執行に当たり、警察の介入を明示。 (3) 児童虐待防止法 教員、医師、保健婦、弁護士等の虐待の早期発見義務あり。 秘密漏示罪は児童福祉法に基づく通告の義務を妨げない。 ※ 「通告」が誤りであった場合の規定は無い。 9. ミュンヒハウゼン症候群 医療行為(手術も含まれる)を受けるために、患者が故意に病気を作り上げる特異な状態。医学的知識をもつ母親に多い。 Ex 乳児に食塩、点滴に糞便混入、検査用の尿内に血液を混入 10. 被虐待児対応の発展段階 Krugman R 第一段階 虐待があることを無視する 第二段階 身体的虐待があると認める 第三段階 子供を助けるために施設保護する 第四段階 親の治療に挑戦する 第五段階 性的虐待に気づき、取り組む 第六段階 予防に取り組む